2016年2月3日水曜日

ポケモンはe-Sportsの夢を見るか?

 2015年、夏。

 ポケモン対戦をこよなく愛するプレイヤーの間に一陣の風が吹いた。e-Sportsの風である。eSports Runnerというe-Sportsニュースサイトが開設され、多くのプレイヤーに重宝されている一方で議論を巻き起こしてもいる。e-Sportsが何なのかは後述するとして、今回はe-Sportsという切り口で、いくつか文章を読んだ程度の立場からではあるが、国内のポケモン対戦の現状や文化的な背景についてなんとなく思うことを、"おーきなこえで"元気に書いていこうと思う!



★前置き

 まず2015年を振り返ってみると、公式大会であるWCSの国内予選では第6世代の対戦環境にも関わらず第5世代産の名構築「バンドリ」が上位通過者の間で流行したり、ビエラ氏が国内予選、全国大会、世界大会の三冠王となり、日本人として6年ぶりに世界からポケモンを取り返したり、世界大会マスターカテゴリの上位7人を日本人が独占したり、その大半がメガガルスタン使用者だったり、一方でmasa氏がWCSと同時的にeSports Runnerを立ち上げ、ボストンの現地からWCSを実況したり、そういった中でe-Sportsがプレイヤーの間で流行語大賞になっていったりと、「対戦」というものがいつになく大きなニュースになった年だった。



★e-Sportsとは何か


 ではe-Sportsとは一体何なのか。電子の手紙はe-Mail、電子市場はe-MP。電子のスポーツがe-Sportsであり、これはゲームをスポーツのようにとらえる新しい文化である。どちらが強いか正々堂々決着をつけたり、高度な技術をアピールしたり、ゲームを観戦したり、選手を応援したりするということだ。つまりこれは、ポケモンがe-Sportsになる、ならないという話ではなくて、ポケモンの場合はe-Sportsとしての実態はWCSなので、WCSをどのようにとらえるか、そのとらえ方のひとつにすぎないし、もっと沢山のとらえ方があると思う。例え世界大会決勝の真っ最中だったとしても。
 次に、具体的に誰がポケモンをe-Sportsととらえているのか。紹介しよう。


Aaron Zheng(@CybertronVGC)さん | Twitter
https://twitter.com/CybertronVGC

CybertronProductions - YouTube
https://www.youtube.com/user/CybertronProductions

 彼の名前はAaron Zheng。アメリカのプロポケモンプレイヤーである。つまりプロゲーマーだ。もう知っている人も多いと思うけど、プロゲーマーとはゲーム大会の賞金やスポンサー料で収入を得ている人のことで、彼はCLASH Tournamentsというコンテンツプロバイダからスポンサードを受けている。ポケモンのプロは彼だけではない。アメリカにもまだ何人もいるし、スペインにもいる。これから、特に海外ではさらに増えていくだろう。また、今は単独のスポンサー契約となっているようだが、複数の経路からスポンサードを受けるようになっていくかもしれない。欧米のe-Sportsシーンではそのようなケースがほとんどなんだそうである。日本人はまだいない。


サイフリートはいつも見学。 - NataSeifriet's blog
"もう、あとは、観客になるしかないなあ。"
http://nataseifriet.hatenablog.com/entry/2015/12/08/092612

 ではプロが誕生した今、プロ以外のプレイヤーは観客になるしかないのだろうか。そういった不安が語られたエントリーが少し前にポケモン界隈で話題になったけれど、そんなことはないと思う。まずe-Sportsとプロe-Sportsは別のもの。それに当たり前のことだけど選手だって試合が終われば他の選手を応援する観客となるのだし、CHALK使いのプロでもバンドリ使いとしては観客ということもある。また、選手以外でe-Sportsに関わる方法は無数にある。コミュニティの運営、サービス、動画や生放送に関連するもの、講座的なもの、関連グッズ、等々。関連技術へのニーズも高まる。



★論点的な何か

 ともあれ世界にはポケモンのプロがいるんだということがわかってもらえたと思う。ところがe-Sportsについて書かれた文章を読んでいくと、ポケモンがこうやってe-Sportsとして、プロが出てくるまでに遊ばれていることに驚きを隠せなくなってきた。そりゃポケモンは神だよ。ソシャゲの何兆倍面白いかわからない。けれどe-Sportsとして見ると興味深い点がいくつかある。


「ゼビウス」がなければ「ポケモン」は生まれなかった!?———遠藤雅伸、田尻智、杉森建がその魅力を鼎談。ゲームの歴史を紐解く連載シリーズ「ゲームの企画書」第一回 | 電ファミニコゲーマー企画記事
"『ポケモン』だって、モンスターを倒しても、「殺した」とは言わなくて、「きぜつさせた」でしょう。"
http://news.denfaminicogamer.jp/projectbook/xevious/4

大学にポケモンサークルが急増 第1世代が大人に :日本経済新聞
http://www.nikkei.com/article/DGXMZO79311440V01C14A1000000/

 1/2014年11月、こういう記事が日本経済新聞電子版に掲載された。一方で日本ではオフと呼ばれるオフラインの対戦会が非常に盛んだ。真皇杯にルビー・サファイア等のゲームディレクター増田順一氏が、ぽちゃオフにはORASのディレクター大森滋氏が降臨するレベルで。また、WCSには中学生以下が参加するジュニアカテゴリと、高校生以上が参加するマスターカテゴリがある。このように大人からこどもまで誰もが楽しめるタイトルはe-Sportsとしてはかなり珍しいのではないだろうか。e-Sportsタイトルというと普通はリアルな戦争や戦闘がテーマになっているものが多いため、大人からこどもまで誰もが楽しめるとはいい難い。なんとなくここに可能性が秘められているような気がしてならない。ポケモンだけでなくe-Sports全体のブレイクスルーになりそうな何か……。だからポケモンとe-Sportsを紐付けられればでかいと思う。e-Sportsの普及を10年くらい節約できるんじゃないだろうか。


 2/また、ポケモンは対戦を始めるまでに結構時間がかかる。対戦を始めるにはまず知識が要る。複雑なタイプ相性や三値を理解しておかなければいけないし、公式ルールであるところのダブルバトルはシングルバトルとは戦い方が異なる。個体を用意するためには孵化厳選や準伝厳選をする必要があって、格ゲーと比べて道具の用意にかかる時間が長い。なのに、流行っている。これは三値という仕組みを知った時の興奮が成長の起爆剤となっているからだと思う。それに周りに協力的な強者がいるとかなり節約できるし、先に述べたバンドリは個体の用意が簡単という意味でダブルバトル入門に最適な構築であり、Showdownという対戦シュミレーションサイトは英語だがROMを持っていなくても構築の試運転ができる。

 3/そしてポケモン対戦には運が絡む要素が散りばめられている。例えばバンドリの主力攻撃技の岩雪崩がある。岩雪崩の追加効果は怯みで、怯む確率は3割と高めなのだ。このように運が絡むゲームはe-Sports向きでないという考え方がある。ゲームとしてはハラハラして楽しいけれど、プレイヤーの技量とは関係ないところで試合が左右されると。スポーツは本来どちらが強いかを競ったり、技術をアピールする場であるというわけだ。
 もちろんポケモンは運がすべてを支配しているわけではないし、将棋やRTSのように「読み」が要求される。それにゲームの側に純然たる競技システムが組み込まれていなくても、例えばスコアアタックやタイムアタックのようにルールを作って競技を成立させることもある。最初に申し上げたようにe-Sportsとはシステムによって定義されるものではなく、それに携わる人々が決定するわけで、そういう意味では全てのゲームに競技性が存在するといえる。あと、少し脱線するけれど、模擬戦AI2.0みたいなものが開発されて人間のプレイヤーと対戦する「ポケモン電王戦」が催される日を心待ちにする声、また自らそれを開発したい、主催したいという声がちらほらと見受けられる。個人的にも神楽しみで、こういうものが実装されると運が絡むことは人間にも一定の勝ち筋が確保されることにつながる。もし実現したらバンドリ使いAIと一戦混じえてみたいものである。
 あと、こういうのって他のe-Sportsタイトルではどうなんだろうと思ってFIFAの大会の放送を見たんだけど、ゴールポスト間際でわちゃわちゃ混戦状態になって結局シュートが外れた時に、「今のって運? 腕?」ってコメントが流れて、それに対してみんな「運」と答えていた。操作中の選手以外は自律行動になるから、そこに運の要素が入ってくるのかなぁと思った。運が絡むe-Sportsタイトルは珍しくないのかもしれない。

ねとすたシリアス 第2回 後篇その1 - YouTube(3:08~)
https://youtu.be/m9bF6eDBKmc?t=3m8s

 4/日本とアメリカではスポーツのあり方が決定的に違う。アメリカのスポーツの規模は日本とは桁違いに大きいので、ゲームをスポーツととらえる「e-Sports」という言葉を聞いた時に、ある程度みんなが参加して盛り上がりそうな実感が伴うんだと思う。日本ではすぐにそういう想像力が働きにくいようだし、スポーツ嫌いの意識も逆撫でしているかもしれない。結果、e-Sportsを名前に使ってニュースサイトを作っただけで、無料で有益な情報を提供しているにも関わらず、日本のプレイヤー層からは「ポケモンはポケモンなんですけど? 急に違う呼び方されても困るんですけど?」などと笑う人が出てくるわけだ。もし日本でe-Sportsとしてのポケモンが普及するとすれば、ポケモンの世界大会はe-Sportsという言葉が流行る前からWCSしかないのだから、日本にWCSを普及させるということしかない。ただ、どのように普及させていくかについて、諸外国のやり方を参考にしながらそれのグレードダウンでいくのか、あるいは例えば先ほどの「大人からこどもまで楽しめる」というヒントを絡めるような全く新しいやり方でいくのか、ここに一考の余地があると思う。

◇◇◇


売り上げ本数(wikipediaより)
BW    国内540万本 世界1471万本
BW2   国内304万本 世界781万本
XY    国内443万本 世界1385万本
ORAS  国内297万本 世界994万本
出典:【雑談】一元化する窓口と閉鎖的なコミュニティ : 喰い断Ⅸさんのポケモン生活
http://blog.livedoor.jp/kuitan9/archives/382683.html


 そんな感じで思いつくことを述べてみた。これからポケモンとe-Sportsがどのように変化していくかはわからない。しかし今日本でこのような現状を知る人は少なく、こすぷれノこころえによれば"広めなきゃ無名!"なので、もうちょっと論じられるようになったら面白いなぁと思う。みんな、ポケモンを盛り上げ、対戦を楽しもう!(そしてバンドリを使おう!)ところで、もうすぐGWだ(気が早い)。GWといえばジャパンカップだ。ポケモンは毎年GWに全国大会の予選が行われる(追記2016/02/19:今年の開催は4月末となった)。今年のルールは禁伝解禁のGSである。うーむ、楽しみで仕方ない……!

 以上、ポケモンはe-Sportsの夢を見るか?でした。読んでくれてありがとうございました。

#読んだもの
e-Sports文化の現状と将来性について--コンピューターゲームコミュニティの新しい方向性
デジタルゲーム競技・e-sports--新たなるゲームビジネス展開の可能性
e-Sportsの現状分析に基づく身体性とその拡張に関する研究
e-スポーツの現況と成長戦略の構築
e-Sportsで日本が立ち遅れている現状

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